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〜さえずり〜 第1章 手に入れた穏やかな日常

  • 執筆者の写真: eco
    eco
  • 2020年4月15日
  • 読了時間: 2分

 毎年、この時期になると思い出す。

自分がいなくなった世界線のことを。

11年経った今でも、あの時の絶望と感動は忘れない。

2019/4/23のメモにはこう書かれている。

[4/15 仙人山にロープを持って登る]

それが意味しているものは、この世の失望からの脱出だった。

誰にも言わず、誰にも悟られず、意識が虚なまま準備を進めていた。

見つけた人のダメージを少しでも減らそうと、マスクやおむつを買い最善を尽くした。

最後の晩餐は、なけなしのお金で買った3000円の牛肉とタン。味がしなかった。

スマホのロックを解除し、メモと保険証や免許証など分かりやすくベットに広げておく。

あとは、酒と眠剤とロープそして三脚が入ったリュックと音楽プレーヤーを持って、音を立てないよう家を出る。

午前3時の真っ暗で静かな世界は、憎しみと苦に溢れている。

山に登ると周りは何も見えず、足元は不安定だったが、いっそ落ちて仕舞えと懐中電灯は出さなかった。

(ここにしよう…いや…目立ち過ぎる。まだ先にあるはず…。)

よろよろと、脇道に入っては戻り来た道を戻りを繰り返し、なかなかいい場所が見つからない。

そうこうしているうちに、頂上に着いてしまった。

休憩用のベンチに座り、景色を眺める。もうすぐ朝が来る。

 いろいろなことに疲れた。

仕事も上手くいかず、恋人とも家族とも上手くいかず、さらに言えば病が心を蝕んだ。

病院に通い薬を飲んでどうにかなればいいが、そううまい話はない。

毎日、何のために生きているかわからないロボットのような存在だった。

 ふと景色に目を移すと、太陽が昇りはじめていた。

明るくなった空の先に、自分が住む街や広大な海、いつになく大きな富士山の姿が見えた。

ちょうど朝日が登って、富士山が輝きだす。

黄金に光る雄大な景色に胸を奪われた。

イヤホンを外し、自然の音に耳を傾ける。

あぁ、小鳥がさえずっている。チュンチュンと。

風は穏やかだ。ほのかに暖かい。春の匂いもする。

澄んでいる空気を胸いっぱい吸ってみる。

涙が、止まらなかった。

(あぁ!生きてる…!わたし…!)

涙の奥にお世話になっている人たちの顔が浮かんだ。

(わたし…この人たちのために頑張らなきゃ。生きて、恩返ししなきゃ。強く、強くなろう。)

 それからわたしは、さっきとはうってかわって清々しい気持ちになり、無事下山した。

その日の予定も難なくこなし、家族にも友達にも言わなかった。

山と小鳥だけが知っている。

自然が教えてくれた命の素を胸に、今も生きているのだ。




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