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〜はじまり〜 第1章 手に入れた穏やかな日常

  • 執筆者の写真: eco
    eco
  • 2020年4月3日
  • 読了時間: 3分

更新日:2020年4月6日

「おかあさん。これ、なーに?」

娘の花雫(ハナ)が、マーガレットをパッと咲かせたようなキラキラした顔で問う。

「これはね、今度ファッションショーで使うやつ。お母さんがつけるんだよ。」

お手製の大正浪漫溢れる髪飾りを机に置きながら、わたしは言った。

年1回、隣町のアートフェスティバルで開かれるファッションショーに出演するようになって早10年。わたしは32歳になっていた。

デザイナーのナギサさんと奇跡の出会いをしてから、わたしは着物と洋服の和洋折衷コーディネートをコンセプトに、衣装作りに励んでいた。

あの頃は、5歳の娘と3歳の息子がいるなんて思いもしなかったな。なんて、物思いにふけりながら、もう一つの髪飾りに手をつける。

「みて。こっちは花雫の。気に入った?」

「えー!これハナの?すごーい!」

淡いピンクの花々と白のレースをあしらった、ブーケのような出来栄えに、花雫から歓声が上がる。

今年は初めて、花雫もショーに参加することになっている。

本人は、生まれた時から見てきたショーに憧れを抱いていたようで、鼓動が爆発しそうなことが伝わってくるくらい、ドキドキとワクワクに溢れていた。

「おきものは?ハナはどれきるの?」

「うーん、まだ悩んでいるの。花雫はどれが着たい?」

和室の着物部屋に連れて入り、気づけばお店が開けそうな膨大な着物達の中から、お気に召すものを探す。

「花雫が着れるのはこっちの短い方。ほら、おいで。」

このエリアは、羽織と道行類が一応仕分けて掛けてある。子ども用は無い。全て大人用だ。

わたしはそれを、小さな身体でも着こなせるよう”ハサミを入れず”アレンジする。

それこそが、わたしのポリシーだった。

「おかあさん。これ、きたい。」

手にとったのは、サーモンピンクの落ち着いた色合いの羽織りだった。

「これね、昔、彩ねーねが着てたやつだよ。花雫もこれがいいの?」

「うん!だってかわいいじゃん!」

「決まりだね。」

彩ねーね、とはわたしの1番下の妹の彩綾(サヤ)のことである。同じく5歳で初めてわたしと一緒にファッションショーに出演し、その小悪魔な仕草と生まれ持った美貌から、圧倒的な支持を得て大変評判の良い年となった。

その時に着ていた羽織りを、偶然にも花雫が見つけだしてきた。

心の中で(あの10年前の壁を超えられるのだろうか…)と不安にもなったが、なんと言ってもかわいいわたしの娘だ。大丈夫。と、気を落ち着ける。

「それに、わたし、天才だから!」

「おかあさんはてんさい!」

アッと思った時にはつい口癖が出てしまった。花雫はそれに慣れていて、いつでもノってくれる優しい娘である。

ふふっ、と顔を見合わせて笑うこの瞬間が何よりの至福、幸せだった。

「さ、空蕾(ソラ)を起こしてきて。お昼にしよっ!」

「きょうはなーに?」

「んー、おうどんにしようかな。」

「やったー!ソラー!おきろー!」

当たり前の日々。当たり前のお昼。当たり前の会話。

この日常を手に入れるために、大変な苦労をしたのは、またの機会に綴ろう。





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